東京教室修了生:Gさんインタビュー
本インタビューは、廣瀬先生の吃音に対する考え方や、お人柄を知るために東京教室開設 当時より廣瀬先生を知るGさんにお話を伺いながら、Gさんの感じたことや変容を通じて先生がどのような方だったのかを感じてもらうために行いました。
<日 時> 2017 年 7月 16 日(日)
<場 所> 東京言友会事務所 ※東京教室復習会で公開インタビュー形式にて実施。
(プロフィール)
Gさん
・精密情報関連会社で管理職
・不動産管理会社で役員
・現在は、不動産管理コンサルタント
(インタビュアー)
K
メーカー勤務(商品開発)
東京教室カウンセラー
K Gさん、今日はどうぞよろしくお願いします。まずGさんが廣瀬カウンセリングを知る前には吃音改善に関してどのようなことをされていたのですか?
G 今から25 年前、小さい頃からのひどい難発を治したくて、あらゆることをやった。度胸をつけるために電車の中で車内演説をしたり、詩吟・講談やコーラスをしてみたり・・・。話し方教室にも同時に2か所通っていた。その場ではしゃべれるが次の不安は無くならない。予期不安だよね。これが消えなくて参っていた。だんだん良くなっても、今度はいつ失敗するか不安でしょうがない。むしろ10回やって10回失敗した方が楽だと思った。
K そんな時に廣瀬カウンセリングを知ったのですか?
G 東京言友会の金曜例会でSさんという女性がいて、「この本を読んでみてくれな い?治るかもしれないよ。」と手渡された本が廣瀬先生の「吃音からの脱出」だった。内心はそんなもんで治る訳ないだろ!と思いながらカバンにしまっておいた。その日寝る前に軽い気持ちで本に目を通したら、内容に釘付けになり動けなくなった。衝撃だった。何の疑問もなく最後まで一気に読み終えた。今まで吃音矯正で良いと言われることは全てやってきたが治らなかった。もしかしたら、この方法なら治るかもしれないと直感した。
『どもりは言語障害ではなく、心の障害である』
K 「吃音からの脱出」のどんなところに感銘を受けましたか?
G どもりは言語障害ではないと書いてあったことがとにかく衝撃だった。それまで40 年間、どもりは言語障害であることを疑いもしなかった。じゃあ何だ?心の障害と書いてある。たまたま吃音者はその障害が言語(言葉)に表れたということ。言葉の表面上を繕ってもだめなんだ。根本から治さないといけないと思った。
K 私が言友会に初めて行ったときに、Gさんに教わったことがまさにそれでした。あの言葉があったからこそ、今もカウンセリングを続けています。では、最初に廣瀬先生と連絡を取った時のことを教えていただけますか?
G 当時、Sさん・Oさん・Iさん(Gさんを含めこの4人が廣瀬カウンセリン グ発起人となる)で、どうしても廣瀬先生のカウンセリングを見に行こうと廣瀬先生に連絡を取ったのが始まりです。
K 先生はどんな反応だったのですか?
G 先生に電話して事情を話したら、1 回や2回私のカウンセリングを聞いたところで理解できない。本当に知りたいのなら私が東京に行きましょうと言ってくれた。平成3年11月23・24日だった。当時先生のカウンセリングの説明を言友会以外の人にも声を掛けて、ここ(東京言友会事務所)に50人くらい集まった。人が階段まであふれる状態だった。1日目は廣瀬カウンセリングの理論。もう1日はカウンセリングの実践。まる2日間9:00から17:00まで充実した講義と実践であった。
K それで教室が始まった?
G 先生は当時、函館少年刑務所の現役教官だったので東京には来ることはできなかった。でも説明会で熱心に聞く参加者を見て先生の考えが変わったようだ。幸運にも、翌年から、月一回東京で教室を開くことになった。
『先生のカウンセリングは人間教育だと感じた』
K 実際初めて見てどうでしたか?
G 始めた時は人数が少なかった。先生の旅費・宿泊費・謝礼など考えると参加者の負担も大きかったので大変だったが、だんだん参加者が増えていった。
K その後、人数もどんどん多くなりましたね。
G 数人から20人、30人と多くなって、一番多い時には60人くらいいたのかな。教室も土曜日4教室、日曜日2教室。先生はさらにその足で当時あった大阪教室に移動してまたカウンセリングをして月曜日に函館に戻っていた。
K 私は5期に入っていますが、その当時の現役生は非常に熱心だったと記憶していますが、先生をお呼びした責任感があったのでしょうか?
K 責任感ともう一つ、教室参加の条件として自分がどもりを治すことだけでなく、どもりで苦しんでいる仲間をサポートができることを条件として募集した。自分さえ治れば良いと考える人がいるが、そうではないと思う。先生のカウンセリングは人間教育だと感じた。どもりを治した後に本当の目的(仲間のサポート)があると思っていた。だから参加者は皆一生懸命だった。
K 仲間へのサポートという考え方が、今の教室にある修了生のサポート体制に受け継がれているのですね。
G 私は廣瀬先生のカウンセリングを通じて、吃音から開放されたことに感謝しているだけではなく、吃音矯正を通じて人間的に真の生き方を学べたことを感謝している。人を思い人に思われ、喜びや悲しみを分かち合うことの意味が分かるようになった。
『パッと浮かんだ瞬間の、一番鮮度の良い感じたことを話すことが大事』
K 吃音が良くなってきたのはいつからでしたか?
G それがわからない。気が付いたら楽になって、どもらなくなっていた。過程としてどもりを隠さない、言い換えをしないことを心掛けた中で変容があったのかもしれない。仕事と恋愛(笑)以外は全て練習の場と考えどもりまくった。
K どんな考え方・実践をしていたのですか?
G 私の考えは、例えばかつ丼が食いたいのに「か」が言えないから言いやすいラーメンを頼んだりする自分を恥じろという事。食べたいものがあるなら、紙に書いてでも、どもってでも、笑われても食べたいかつ丼を注文すべきである。もしラーメンを注文してしまって目の前にラーメンが来たら、ラーメンを床に投げつけるか、悔し涙を流しながらラーメンを食べる。そんな気持ちが必要である。自分の心に素直に正直に生きる。そんな気持ちがないと自分の中に起こっている反応はわからない。自覚なんかできない。
K そんな後藤さんですが、当時の教室では本読みでは特にどもっていましたよね。 なぜ良くなられたのかを考えるときに、この取り組む姿勢が非常に大切なのだと思いました。話を戻して、当時先生は教室でどのようなことを言っておられましたか?
G 今と変わらず、どもりの刺激と反応や、文章から感じたことを聞いていた。当時は、いったい何を感じればいいかさっぱりわからなかった(笑)。大事なことは「今感じたこと」を即、話すことだということが分かってきた。例えば、文章を読んで感じたのに2人3人発言した後に話をすると、感じていないことを加えたり、良い答えに変えようとしている。こんな発言なら話さない方が良いと思う。仲間の話を聞いて、新たに変われば、その変わったことを話せばいい。今、パッと浮かんだ一番鮮度のいいことを話すことがとても大事である。
例えば、「あ」が出ないと悩む人が、電車で足を踏まれたと時は、とっさに「あ、いたい」と「あ」が喋れる。これは瞬間に感じたことを話すから喋れる。ここに吃音を治すヒントがある。浮かんだことを「吐き出す」という表現が分かりやすいかもしれない。
K 1 期生の方々の教室では、仲間の話から沸き上がったことをどんどん「吐き出す」 カウンセリングになっていましたね。今はグループカウンセリングなのにこれができていない気がします。
G 1 期生は真剣にどもりを治したいと願う人たちの集まりだったと思う。できたら治したいという生半可な考えの人は少なかったと思う。皆苦労をしてきた人達だったが、自分も含め、仲間も一緒になって治っていきたいと考えていたと思う。
『相手の話や、仲間との関係を大切にしてほしい』
K 教室で大事なことは何でしょうか?
G 例えばカウンセリングの場の本読みで、「どう感じましたか?」と聞かれ、他の人の答え聞きながら、正解に近い答えを出すことではない。あくまでも、今、自分の心に浮かんだ沸き上がったことを話すこと。また自分だけでなく、仲間の話もじっくりと聞いてほしい。仲間の話を聴いて話す、聴いて・話す。ただそれだけ。教室の「仲間」を大切にしながらカウンセリングを行わなければ、グループで行う意味がない。あなたのおかげで私が自覚し変容でき、あなたも同様変容できる。この尊い人間関係を大切にしてほしい。
K 教室に関わりながらどんな変容がありましたか?
G 当初は、皆に立派なことを言っていたが、実際は、他人のことなんかどうでもよかった。自分さえ治ればいいと考えていた。先生や仲間と関わる中で、ある時、これではダメだなと思うようになった。自分には何か大事な大きなものが欠けているような気がした。言葉の言い換えやごまかしもそう。言葉を絞り出すのに、下腹に力を入れ、抑揚をつけながら話したり、机をバンバン叩いて話していたが、そのことに疑問を感じなかったが、そうじゃないないと思い始めた。
『廣瀬先生に惚れ込んだから、ここまでやってこれた』
K グループカウンセリングや運営など仲間との関わりから学んだことはあります か?
G 正直に言うと、仲間の為というより、廣瀬先生の為に教室を続けてきたかもしれない。 どもりは絶対に治らないという吃音学者が大多数占めているが、理論より臨床中心で人間教育を基本とする廣瀬先生は異端派の存在であった。廣瀬カウンセリング理論を証明するには、自分の吃音が克服、治癒し、いきいきとした人生を送ることが一番だと思っていた。
K 廣瀬先生のエピソードなどお聞きしたいのですが?
G 廣瀬先生は、函館少年刑務所時代は、仕事が終わってから吃音者を集めたカウンセリングを行っていた。残業など給料をもらって行っていた訳ではない。先生は吃音者を治 してから世の中に送り出すことが自分の役割と考えていたのだと思う。先生と話をしたとき、「少年刑務所所長の変わりはいくらでもいるが、廣瀬努(吃音カウンセラー)の代わりは私以外にいない。」と言っていた。吃音者を想うこの言葉は衝撃だった。先生の人柄だと思う。
K 先生はどうしてそこまで吃音者の事を考えておられたのでしょうか?
G わからないね。自分の使命・天命だと思っていたのでしょうね。 よく考えたら、私は廣瀬カウンセリングの理論を信じたというより、廣瀬努先生に惚れ込み信頼したので、ここまでやって来たと思っている。
『カウンセリングは自分との戦いの場であり稽古場』
K 刑務官時代の廣瀬先生は非常に怖かった記憶がありますが?
G 当時先生は、このカウンセリングは自分との闘いの場である。最も緊張する場でなければいけないと言っていた。皆さんのおかげで私の緊張を保つことができていると言っていた。非常に厳しいスタンスで臨んでおられた。
K 先生は、教室はサロン(和やかな場)であってはならないと言っておられましたね。
G 教室では何だか良くどもるけど、日常に帰ると、楽になるのが理想。一番いけないのは、教室でどもりを隠して、自分の吃どもる反応を自覚しようともせず、適当にその場を和やかにすごそうとする人。周りは全員どもりの人だから、隠さず自分をさらけ出してほしい。ここは稽古場である。
K 先生は、骨折してもギプスを外して来て、帯状疱疹で入院した時も抜け出して来て下さった。飛行機が飛ばなくなった時でさえ電車で東京まで来るような人でした。20数年間、一度も休まずに東京教室に来て頂きました。晩年、先生の体調を気にして、いつまで東京教室に来てもらうべきかを修了生で話し合ったことがありました。その時に先生の奥さんに話を聞くと、「私の言うことなど聞かないが、Gさんの言うことはよく聞く。どうするかはそちらで判断してください。」とおっしゃるので驚いたことがありました。(笑)
G 先生はカウンセラーで死にたかったのかもしれない。家族より教室を大事にしてい る印象さえある。自分や家族のことより、クライアントの事を一番に考える方だった。
『どもったら失敗だと思うのは間違いなんだ』
K 先生が私たちに伝えたかったことは何だったと思いますか?
G わからないけど、吃音なんかに負けるなということではないかな。あなたには素晴らしい才能と能力がある。必ず克服し治癒できるから、自己実現に向かって自信をもって生きろ、行動しろ。幸福になれ。そんなところかな。ところで、コミュニケーションで大事なことは、どもっても自分の言いたいことが相手に伝われば成功なのに、吃音者は話が伝わってもどもったら失敗と考えている。
K その考え方の延長線上に人間形成になるのですね。
G そう。コミュニケーションは自分の言いたいことを言い、相手の考えを聴くこと。これが大事なのに、どもることのみを問題にしている。おかしいだろう?
K 話は相手がいるから存在する。だから相手のことが大事なのですね。
G 話の主体は自分ではない。相手である。なのに、自分のどもりばかり気にしている。この考え方がわからないとポイントがずれ、何年やって効果がでないと思う。だから自分ではなく、相手、仲間が大事だと思う。全てが結びつくと思う。
K 運営に関わっている人が比較的変容している事実が、その話の証明なのかも知れ ませんね。
G 私達は、どこかで大事なことを間違えてしまったのではないかと思う。それがたまたま言葉に障害が出てしまっているだけ。だったら間違えを修正することが 解決策であり、発声練習や呼吸法などが解決策ではないことがわかると思う。
『どもりは必ず治ると思います』
K 教室に参加する上で大事なことは何でしょうか?
G まず廣瀬カウンセリング理論を理解する必要があると思う。なぜ感じなければいけないのか? なぜ前頭葉を働かせる必要があるのか。わからないと変容は難しい。 知識と行動、知行一致が重要であると思う。
K 今の教室の人たちにアドバイスを頂けますか?
G まず廣瀬カウンセリング理論を理解してほしい。理解したら、理論に沿った行動をしてもらいたい。治癒する過程では、今まで以上にどもることはある。どもる苦しさを耐えることは覚悟して続けてほしい。苦しさは必ず減り、いつかはなくなります。仕事や大事な場面では、言い換えや吃音を隠すことは仕方がないが、プライベートな時間では、可能な限り自分の気持ちに素直に行動してほしい。そうすると自分が見えてきます。おかしな自分が見えてくると思います。「なんて馬鹿なことをやっている。」ということがわかってくると思います。
K 廣瀬カウンセリングで吃音は治ると思いますか?
G 昔の自分では考えられないが、今は、電話、会議、日常生活等で楽に話ができコミュニケーションで困ることは何もない。毎日が楽しい。吃音するかどうかの予期不安もなくなった。気になるのは、話す内容である。どうすれば相手に自分の言いたいことが伝えられるか。この一点ある。どもりは必ず治ると思います。
K 本日は貴重なお話しありがとうございました。
Gさんのインタビューを通じて廣瀬先生が私たち吃音者へ伝えたかったこと・廣瀬カウ ンセリングの本質を理解できた事だけでなく、吃音改善に本当に必要なものは何かを教え て頂けた内容でした。Gさん本当にありがとうございました。(K)